ここは君が夢みた、ふたりだけの世界。
言葉のみを受け取っていいのなら、私はすごく喜んでいた。
でもそれ以上に悲しい顔が目の前にあるのだから、素直に喜ぶことはできなくて。
うん、も。
私こそありがとう、だって。
軽々しく言えなかったのはどうしてなんだろう。
「俺ももっと…青石さんのこと知りたい」
「もちろん!時間なんかいっぱいあるんだからっ!……浅倉、くん…?」
なにを言っても駄目な気がしてならなかった。
どんな言葉を贈れば、君を笑顔にできるんだろう。
どんな言葉を贈れば、君を悲しい顔にさせなくて済むんだろう。
言葉じゃない。
彼が欲しいものは言葉なんかじゃないこと。
このときの私はまだ、なにも知らなかった。
私よ、過去の私よ。
どうか覚悟を、作っておきなさい───。
このとき、この時間、この瞬間にも。
彼の身体に住みつく悪魔が、ひとつひとつ蝕(むしば)もうとしていること。
この手が、こんなにも優しい手が。
大好きなひとの、大好きなぬくもりが。
思うように動かせなくなる日が───くることを。