ここは君が夢みた、ふたりだけの世界。
「幸せって気づかないものなんだよ。でも、ふとしたときに実感するの」
「あら、ちょっと大人な考え方になったじゃない李衣。それも彼氏くんの力なの?」
「失礼なっ!私だってもう16歳なんだから!」
そうなんだよ、そのとおりなんだよお母さん。
あのとき、確かな幸せを感じた。
イルミネーションから遠ざかって、目映い光なんか見えない場所だったというのに。
私はあの瞬間がいちばん幸せだった。
「あ、そうだ。あんた今年こそは受けなさいよ」
「え、なにを」
「予防接種」
そんな雰囲気をぶち壊してきた、私にとって史上最悪の四字熟語のような言葉。
空気を読んでお母さん。
私のうれしい気持ちを返して、お母さん。
「あれ別に義務じゃないしっ、それに普通は11月頃に受けるよね?もう季節過ぎちゃったから!」
「予約がなかなか取れなかったのよ。去年受けなかったぶん、今年は何としてでも受けてもらうから」
「やだやだ、ぜったい受けない」
「その歳になって注射に怖がってどうするのよ」
この時期になると必ず流行るウイルスのことを母は言っている。
私のなかで注射と幽霊だけは「大きくなれば平気」なんて公式など存在しないのだ。