ここは君が夢みた、ふたりだけの世界。
それはお前のためにも───、
私の耳が確かな本音をキャッチしたと同時、背後から「青石先生」と呼びかけてくる声があった。
「…!どうかされましたか?彼の様子で何か変わったことが…?」
振り向いてすぐにお昼休憩のことなど忘れた素振りで席を立つ叔父。
まるで彼女だけは、どの患者よりも優先させているかのように。
「お世話になっております。いえ、その、いろいろもっと詳しいことを先生にお伺いしたくて…」
「わかりました。こちらへどうぞ」
状況に追い付けない私は、それくらい驚くことがあったからだ。
こちらへ声をかけてきた女性が、昨日コインランドリーで泣いていた女性に雰囲気が似ていたこと。
やっぱり今にも壊れそうな女性で。
「李衣、悪いが仕事に戻る。俺の生姜焼きも食っていいぞ」
叔父さんが私の名前を言うと、今度は傍に立っていた女性がぽつりと小さく復唱した。
ふたつの背中は遠ざかってゆく。
晴れない気持ちのまま唖然とする私の前、テーブルに並んだお昼ごはん。
「急にごめんね浅倉くん。…ううん、ちょっとだけ声が聞きたくなって、」
俺も聞きたいと思ってた───そんな大好きな声を聞いて。
スマートフォンを握る手は、どうしてか震えた。