夜明けを何度でもきみと 〜整形外科医の甘やかな番外編〜
菜胡を休憩へ送り出してから、たびたび時計を見た。十四時になった。まだ十四時十五分じゃないか。あまりにも時間が経つのが遅いから外科外来へ様子を見に行きたい衝動を抑え込んで、病棟での回診や指示書、処方箋を書いて、理学療法師との意見交換も行って、今日の仕事を終える目処がついた。時刻は十七時だった。仕事をしていたらあっという間に時間が経っていた。あとは医局で書類を書いたら帰れる。菜胡の居る、俺たちの家へ帰れる。足取りも軽く医局へ戻ったら携帯にメッセージが届いた。
『終わりました、お先に帰ります』
菜胡からの退勤を知らせるメッセージだ。無事に外科外来を終えたのだ、あとは帰ったら俺が甘やかすだけだ。ホッとした。
気をつけて帰るように、ということと、もう少しで帰れる事を返信すると、すぐに『晩ごはんを作って待ってる』と返事が届いた。顔がニヤける。愛しい菜胡が待っている。二人でお手製のご飯を食べられる。こんなに気分のいいことったら無い。
ニヤニヤしながら自席へ足を向けたら、応接スペースから賑やかな会話が聞こえてきた。三人の医師がくつろいだ様子で談笑していた。
一人は内科の陶山、もう一人は外科の澤崎、三人目は耳鼻科の久我山で、彼らの会話が耳に入って、一瞬で身体が強張った。ぐぎぎ、と錆びた鉄を動かすかのような音がしそうなほどに、応接スペースを見た。覚悟していたとはいえ、やはり聞きたくないものだ、他の男が、俺の宝物の名を呼ぶなんて。
「今日新しい子がヘルプで来ててさ、整形の子、石竹さん。あの子いい子だね、少しおどおどしてるけど、素直で気が利くし度胸もある。さすが大原さんの娘」
そう言って笑ったのは、外科の澤崎だ。チッと心の中で舌打ちをした。
澤崎はとにかく手が早いから、棚原は警戒していた。
病棟でその自由な振る舞いを何度も見た。例え他の医師や患者、看護師がそこに居ようとも、気に入った看護師がいると躊躇いなく抱きしめる。そういう男なのだ。だから外来という狭い空間で、もし菜胡と二人きりになってそうなったら……! 外科外来まで食堂のおばちゃんに見にいってもらうわけにもいかないから、午後は気が気じゃなくて落ち着かなかった。