夜明けを何度でもきみと 〜整形外科医の甘やかな番外編〜
「いいなあ、いつも遠目に見てるんだよなあ。耳鼻科は接点が無いからさ。診察室も遠いし」
これに加わってきたのが耳鼻科の久我山だ。耳鼻科だろうとヘルプがあれば菜胡は行く。そういう事になってるらしいから、機会があれば、行かせたくないけど、きっと行く。
「なんか雰囲気良いんですよねー、色気があるっていうか。棚原先生はいいなあ、毎日あの子と外来でしょう」
「良い子でしょ? でもガード固いですよ、なんたって大原さんが後見人だから」
久我山へ棚原が返事するよりも先に陶山が返した。なぜお前が言うんだと睨め付ければ、あちらも棚原に意味深な目線を向けてくる。
陶山は二人の関係を知る数少ない者の一人で、口が硬い信用に足る男だから敵に回したくない。一時は菜胡に近づいてきていたが、例の件以降はそれとなく応援してくれていたのに……意趣返しのつもりだろうか。
「ウブそうで良い子だし狙っちゃおうかなーって思ったけど、チラッと見えたんだよねー。ここに」
澤崎は、ここ、と自分の鎖骨の下辺りを指差した。
お前! どういう目で菜胡を見ていたんだ?! 油断ならない。
「マジか、独占欲強めの彼氏あり、か……」
久我山は小さく驚いた。そんな彼らの様子を見て、してやったり、と棚原は内心、ほくそ笑んだ。特定の相手がいると匂わせれば――!
「それだけ愛されてるんですよ、きっと。そして恐らく、消えてもまた付けるでしょうね。ねえ、棚原先生」
突然話を振られて焦る。ああそうだとも、とも言えない。交際を明かしてもいいのだが、公表は結納が済んだらにしようと菜胡と話しているから何も言えない。もどかしい。
「ですね、迂闊に手は出せませんね、相当の覚悟が要るでしょうね」
苦し紛れに乾いた笑いをつけて答えた。ほんとそうだ、と笑いが起きる。その笑いに乗じて、急いで医局を後にした。
あの時、キスマークをつけておいて良かった……あれはお前らへの牽制だったのだから。