夜明けを何度でもきみと 〜整形外科医の甘やかな番外編〜

「大原さんお母さんみたいだね」
 菜胡へあれこれと助言を繰り返す大原さんを見ていて、思っている事がつい声に出てしまった。初めて働きに出る娘へのそれと同じだ。

「そおよ、菜胡は娘よ。度胸はあるから大丈夫、できるわ。あんたは十四時からだから、あたし先にお昼頂いちゃうわね。十三時には戻ってくるから。その後で菜胡入って。先生はどうするの、お昼行く?」
「俺はちょっと調べ物してから適当に上がります」
 今ここで菜胡に触れておかないといけない気がして、適当な事を言って大原さんを先に休憩へ行かせる。

「そう? じゃあお先です」
 あっさりと大原さんは手提げカバンを肘に掛けパタパタと外来を出ていった。足音が聞こえなくなるのを待って、菜胡を呼ぶ。

「ん、菜胡」
 椅子に座った状態で膝をポンポンとたたけば、菜胡はごく自然に膝に乗ってくる。おいで、と言わなくても来る。可愛すぎるだろう?! 誰が教えたんだ、俺だ。
 落ちないようにぎゅっと引き寄せてから彼女の腰に手を回せば、俺の胸にもたれかかって来た。今すぐ連れ帰って抱き潰したい。だが冷静に聞いた。

「どういうことなの」
 経験値は高い方がいいに決まってるけれど、自分以外の医師のサポートなんて気に入らない。それに、何の相談も無かったのも、ショックだ。

「お、怒ってるんですか」
「怒ってないけど……よその男の近くで働く話が進んでたなんて聞いてなかったから」
 確かに、怒ってはいない。気に入らないだけだ。菜胡の身体が少しだけ緊張したのがわかった。膝の上でうつむいてしまった。

 怖がらせたいわけじゃない。ただ俺の中の、独占欲がうるさいんだ……。

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