夜明けを何度でもきみと 〜整形外科医の甘やかな番外編〜

 うつむいたままの菜胡の名を呼ぶ。上を向いた彼女の、無防備な唇を塞いだ。少し開いた唇から菜胡の舌を捉えて絡み合う。何度もしているのに、この時の菜胡は呼吸が下手だ。背中をポンポンと何回か軽く叩いてやると、思い出してうまく鼻で呼吸をする。こういうウブさも堪らない。

 鼻から抜けるような吐息を漏らし始め、混ざり合った唾液が溢れる。菜胡の顔が上気してきた。このあと菜胡は外科外来へ行かなければならないのにやり過ぎた。

「っは……黙ってて、ごめんね?」
「ん」
 菜胡を引き寄せ、白衣から見える首筋の、襟でギリ隠れるか、くらいのところに強く吸い付いた。

「んっ……少し前から、考えていたんです、いつも大原さんが行くけど、私だって、五年目になるし。だから」
 白衣のボタンを一つ外したところにももう一つ。

「あっ……そんなところにっ」
 身悶える菜胡が色っぽい。

「俺に相談してくれなかったからお仕置き」
 よし、これで良い。乱れた菜胡の白衣を直してやり、すべすべの頬を指で撫でてから、また口付けた。このまま離れたくない。でも、あまり菜胡を蕩けさせたら仕事にならない。

「外科の澤崎は手が早いから近づかないで」
「は……え、手が早いの?」
「……医師なんて碌でも無いのしかいないから」
 はーっと息を吐いて菜胡の胸に顔を埋める。この匂いに澤崎が気づいたら? だけど大丈夫、俺の印を付けたから。

「ね、紫苑さん、知ってます? 私の一番大切な人も、医師なんですよ」
 菜胡が何かかわいいことを言っている。小さな手が俺の頭を撫でながら、俺の顔を覗き込んできた。くるくるとした目が俺を見つめる。ぷっくりとした唇が弧を描き柔らかな笑みを浮かべていて、まるで女神だった。

 ふふ、と小さく笑った菜胡の声は、重なった唇の間で吐息になって溢れ出した。

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