甘くてこまる
「だって、今までせいらに男っ気がなかったのって、ヤツらのせいじゃん」
うみちゃんは、当然です、とでも言うようにきっぱり断言する。
「矢花と千坂。ふたりが、せいらを囲ってガルガルしてたから、他の男どもは近づこうにも近づけなかった。あんた、よくあんな凶暴な幼なじみズを飼い慣らしてるよね」
「うーん……? 郁と紘くんは、関係ないと思うけど……」
たしかにわたしには彼氏がいたことはないし、そもそも恋をしたことも、されたこともない。
だけど、それは別にわたし自身の問題だよ。
わたしに魅力がないんだと思うし、わたし自身も恋愛にあんまり興味を持っていないし。
「自覚なしかー。まあ、矢花がいなくなって、これから千坂ひとりになるんだから、そのうち嫌でも気づくと思うよ。色々」
「色々ってなに?」
「そりゃあー、せいらがとんでもなく可愛いってこととか」
「もー、うみちゃん、おだてたって何も出ないよ」
お世辞じゃないんだけどね、とうみちゃんは苦笑した。
「ていうか、大丈夫なの? 千坂のこと、放ってて」
「はっ、そうだった! じゃあ、わたし、帰るねっ」
「あー、うん。千坂にもよろしく言っといて」
「うん! また明日ねっ」
荷物をまとめて、うみちゃんに手を振ってバイバイする。
昇降口に駆け足で向かうわたしを見送りながら、うみちゃんがまたも苦笑いで呟いた。
「相変わらず過保護な。まー、そうしたくなる気持ちも、わからなくはないんだけど、このレベルがふたりもいるとさすがに厄介。私なら逃げ出すね」