甘くてこまる


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うみちゃんの言うとおり、紘くんは下駄箱に背をもたせかけて立っていた。


なにやら難しそうな本に視線を落としていた紘くんは、わたしに気づいて顔を上げる。




「ごめんね、紘くん。待ったよね」

「いや、俺が勝手に待ってただけだから。つか、どうしてわかった? 俺がここにいるって」

「うみちゃんが教えてくれたの。紘くんに『よろしく』って言ってたよ」

「なるほど、加倉か」

「わたし、うみちゃんと同じクラスだったんだ。奇跡だよねっ」



しかも、席が前後なの。


出席番号順で加倉の次が、「き」「く」「け」「こ」飛んで、笹本(ささもと)だなんてびっくりだ。


座席表を見たとき、嬉しくてちょっと飛び跳ねちゃった。





「知ってる。良かったな」





紘くんが、目を優しく細めた。

うん、うみちゃん、やっぱり紘くんは能面じゃないと思うよ。






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