甘くてこまる
「帰るか」
「うん、お腹空いた〜!」
今日は入学式とクラスメイトの簡単な顔合わせだけで終わった。
時刻は、ちょうどお昼を過ぎたところで、お腹はぺこぺこ。
早く家に帰って、お昼ごはんを食べたいな。
紘くんが左、わたしは右。
いつも通り肩を並べて、校舎の外に出る。
別に、立ち位置は決めているわけじゃないけれど、いつも自然にそうなるの。
“別に決めているわけじゃないこと” といえば、もうひとつ、一緒に帰ること。
約束したことは一度もないけれど、行きも帰りもバラバラになったことはなかった。
それは、紘くんだけじゃなく、郁も。
だけど、ある時を境に────……。
わたしのさらに右側が定位置の、ここにはいない、もうひとりの幼なじみの姿を思い浮かべて、またもやもやとグレーな雲が心に広がっていく。
だめだめ、郁のことは、考えちゃだめなんだってば。
「紘くん、それは何の本?」
紘くんが片手に持つ難しそうな本を指さして聞いてみる。