甘くてこまる


「……っ、え、郁っ?」




目を大きく見開いた。

わたしの家の玄関をふさぐように、朝別れた郁が仁王立ちしている。


なんで、どうして、だって。





「郁、今日は撮影じゃ……」

「それは夕方から。ていうか、それよりさ」





おかしい、と一呼吸おいて気づいた。


郁の様子がおかしい。


いつも、ふにゃふにゃ笑っているのに、眉間にシワなんか寄せている。



多少のことでは動じない、連ドラの撮影で1週間まるまる夜通し仕事漬けだったときですら疲れの色をにじませなかった、あの郁が。




もしかして風邪をひいたとか……?


心配になっておでこの温度をたしかめようと手を伸ばすと、パシッと掴まれた。





「朝の、なに? どういうこと?」

「え、と?」





戸惑い、きょろきょろと視線をさまよわせる。


そんなわたしをじーっと見つめた郁は、ふいに紘くんの方を振り返って。





「帰っていーよ。じゃあね」





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