甘くてこまる
紘くんは、様子のおかしい郁に眉をひそめつつも、家のなかへ消えていく。
それじゃあ、わたしも……とそろり、背中を向けようとすると。
「せーらは、だめ。こっち」
「ふぇっ?!」
掴まれたままの手のひらをぐいっと引かれる。
いつもの郁からは考えられない、強引な力加減。
腕をぐいぐい引かれて、性急に郁の家の中へ転がりこむ。
「待っ、郁っ! わたし、お昼ごはんまだ────……っ」
「そうやってすぐ逃げようとする」
「逃げる、とか、そういうんじゃっ」
「じゃあなんで」
いつの間にか、郁の部屋の中に追いやられていた。
わたしの部屋とベランダから行き来できる、あの部屋。
とん、と肩を押されて、ふいをつかれたわたしは、ベッドの上に座りこむ。
郁は、わたしの真正面、床にしゃがみこんで、見上げるように視線を合わせた。
「なんで、俺から離れようとするの」