甘くてこまる
「朝言ったとおりだよ。郁の部屋に行ったり、話しかけたり、こんな風に一緒にいるのを、もうやめるの。やめようって思ったの。だって、その方がいいもん」
考えてもみてよ。
「郁は、もう、れっきとした 〈芸能人〉 でしょ? ただの一般人のわたしと一緒になんて、いちゃだめだよ。ほら、今どき、いつどこで誰が見てるかわからないもん、スキャンダルとかパパラッチとか……」
わたしの知るかぎり、郁は昔から俳優を目指していたわけじゃない。
郁が芸能界に入ったのは、スカウトがきっかけだけど……でも、すぐ隣で見ていたから知っているの。
オーディションだとか、見た人から届く率直なコメントだとか、そういう厳しい世界のなかで、頑張っていること。
演技をするお仕事に、真剣に向き合っていること。
そんな郁がきっと、これから順調に積みあげていくはずのキャリアが、スキャンダルなんかで崩れたら、悲しい。
そんなことで手のひらを返されるなんて、絶対、あっちゃいけないの。
郁には女の子のファンが多いんだから、余計に、気をつけた方がいい。