甘くてこまる
キレーな色の瞳に吸い込まれそうになって、心臓がとくんと音を立てた。
わたしの動揺なんてお構いなしに、郁の顔がどんどん近づいてくる。
「い、郁……っ」
何しようとしてるの。
困惑して、迫りくる郁から逃げるようにきゅっと目をつむると。
「いっ!?」
とつぜん、ふにっと頬をつままれて目を開ける。
郁はぱっと手を離してわたしを解放した。
ようやく、郁とわたしの間に少しの隙間ができて、ふう、と息をつく。
「抵抗なんてムリだって、わかったろ。ああやって追いつめられて、あのまま、ぱくっと食われておしまい。これに懲りたら、鍵のかけ忘れとかそういう凡ミス、もうしないでよ」
「うう……、はい」
「じゃないと、俺、心臓いくつあっても足りないんだけど。心配でたまんない。どうしてくれんの」
「わ、わかったよ。もうしない、気をつけるっ」
約束、と小指を立てたわたしに、郁は「正直信用できない」とこぼしながら指を絡めた。
いちばん細くて小さな指で体温を共有しながら、そういえば、と考える。
────そういえば、そもそもどうしてわたしは郁と話しているの。
こんな風に、ふつうに。
あれ? わたし、決めたよね。
郁と距離を置くことにするって、決断した。