甘くてこまる


「え、今さら?」

「今さらでもだめなものはだめっ」




ぎゅう、と掛け布団を握りしめる。

郁が、ふっと笑う声が耳に届いた。





「べつに、いつも変わんないじゃん」



「ひ、ひどい。そりゃあね、わたしがちょっと身だしなみを整えたくらいで、郁のまわりにいるような女優さんみたいにはなれないのはわかってるけどね……っ?」





ぱぱっと身支度しただけでキラキラになってしまう郁と、わたしじゃ、全然違うなんてことは重々わかっているけれど、といじけていると。





「そういう意味じゃない」

「じゃあ、どういう意味?」

「せーらはかわいいよ。別に、なにもしなくても、いつも」




油断した隙に、布団を捲り上げられてしまった。


もぐりこんでいたせいで、余計にぐちゃぐちゃになってしまった髪を見て、郁は「ふは」と声を上げて笑う。

くつくつと喉を鳴らして笑う郁に、首を傾げた。




「郁、わたしになにか用があるんじゃないの?」

「え、ないけど」

「え」




じゃあ、どうして早起きなんかしてるの。

わたしの疑問を器用にくみ取った郁は、へらっと笑う。





「せーらのこと、起こしにきただけ」




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