甘くてこまる


写真や手紙をひととおり全部取り出して、懐かしさにひたりながらも、もう一度箱の中にしまおうとしたところで、気づく。




「あれ……?」




中に、まだ、なにか……。


箱ごとひっくり返してみると、ころんと転がり出てきた。


蛍光灯の光を浴びて、キラリと輝いたそれは。





「指輪?」




ちいさなちいさな、おもちゃの指輪。


子供用のサイズで、今のわたしだと小指でもぎりぎり通るか通らないかくらい。



光にかざしてみると、プラスチックでできた、いちごキャンディみたいな宝石がピンク色にキラキラ瞬いた。



そのちゃちい輝きは、どこか懐かしくて、でも。





「こんなの、持ってたかな……?」





思い出せない。


他の写真や手紙のことは、ちゃんと覚えていたのに。

おかしいな、この指輪の記憶だけ、すこーんと抜け落ちている。


宝箱にしまってあるってことは、きっと、わたしにとって大切なもののはずなんだけど。





「……うーん」




首をひねっても、わからない。

結局、思い出せず。

あきらめて、おもちゃの指輪をそうっと宝箱のなかに戻す。

蓋をきゅっと閉め直して、引き出しにしまった。





✧︎

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『だからもう、泣かないで。おれが────』





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