甘くてこまる
「……どっち?」
あいまいな返事をした紘くんを伺うように見上げると。
「今日、せいらは部活、ある?」
「え? うん。カメラの使い方、教えてくれるって、先輩が」
「わかった。じゃあ、部活終わり昇降口で」
「ええ? それだけ言いにきたの?」
わざわざ言わなくても、紘くんとはいつも一緒に帰るのに。
妙だな、と思っているとうみちゃんが紘くんの顔をじーっと見つめて。
「せいらと話してるとこみると、千坂も人間に見えてくるね」
「紘くんはもともと人間だよ……」
「生物学上はね」
紘くんは、ほんとうにそれだけの用事だったらしく、ぽんとわたしの頭の上に優しく手のひらを乗せたあと自分の教室に戻って行った。