甘くてこまる
♡
𓐍
𓏸
部活終わり、夕暮れ、オレンジ色の夕日がさしこむ昇降口。
陽光を反射してきらめく艶やかな黒髪を見つけて。
「紘くん」と声をかけようとしたけれど。
「あ、あのっ、千坂くん!」
コンマ1秒の差。
「ひ」の形に口を作ったところで、上ずった声に先を越された。
女の子……?
誰だろう、知らない子。
紘くんと同じクラスか、同じ部活の女の子かもしれない。
ジャマしちゃいけないよね、と慌てて下駄箱の陰に隠れる。
「千坂くん、私、話があって……。お願い、聞いてほしいの!」
栗色の髪を編みこみハーフアップにしたかわいい女の子が、両手をぎゅうと握りしめて、紘くんの顔を覗きこむけれど。
当の紘くんは、開いた本に視線を落としたまま。