甘くてこまる
あの分厚い本も棋譜なのかなぁ、とぼんやり考えていると、女の子はしびれをきらしたのか、紘くんの袖を掴んで、無理やり注意を引いた。
紘くんは、たった今、彼女の存在に気付いたようで、目をわずかに細くする。
「何か用?」
「あの……私っ、私……」
紘くんと目が合ったその子は、途端にしどろもどろになって、頬を赤らめて、それから。
「入学式の日から、千坂くんのことが気になってて、好きで、だから千坂くんさえよければ私と────」
紘くんに向けられた、告白の言葉にびっくり目を見開いたのも一瞬。
「悪い」
まるで答えなんて最初から決まってましたってくらいの即答。
顔色ひとつ変えないままの紘くんに、わたし────と、なにより返事をもらった女の子がたじろぐ。
「……っ、ま、待って。もうちょっと、真剣に考えてくれてもよくない……? それとも、そんなに無理? 私はダメってこと? どうしても?」