甘くてこまる
「……うん? 意味わかんない、かわいいことはいいことでしょ?」
「いいけど、よくない」
郁の言うことは、たまに難しい。
お仕事をしている分、わたしよりずっと先に駆け足で、大人の階段をのぼっているように思える。
そうだ、思い出した。
わたし、今日、郁に言おうって決めていたことがあったんだった。
「郁、そろそろ自力で起きれるようになって」
「毎日せーらが起こしてくれるから、必要ないじゃん」
「そのことなんだけど……、あのね、大事な話があるの」
「なに?」
改まって背筋を伸ばしたわたし。
首を傾げた郁を目の前に、すう、と深く息を吸う。
言うんだ。
だって、決めたんだもん。
春休みの間、いっぱい考えて、決めたんだから。
「わたし〈郁断ち〉する……っ」
目をきゅっと瞑って、宣言した。
よし、言った!