甘くてこまる
ママはよく、自分が郁のファン1号だって豪語してるけれど。
ほんとうは、きっと。
郁のファン第1号は、わたしだ。
「なんでそんなしょぼくれた顔してんの」
郁に指摘されて、うつむく。
「郁は、わたしに応援されてもうれしくないかなぁって」
これは口から出まかせで、ほんとうはそうじゃない。
そうじゃなくて、わたしは、認めたくないだけだ。
────わたしが郁の “ファン” だってこと。
「死ぬほど嬉しいけど、俺は」
ほんとうに嬉しそうに頬をゆるめる郁に、複雑な気持ちになってしまう。
だって、“ファン” は遠いよ。
郁のファンだと自称したくないって、わたしはずっとどこかで意地を張っている。
郁を応援する、何百、何千、何万のひとたちと、同じはいやだって。
だって、ずっと一緒にいたのに。
わたしの方が郁のこと、何倍も知ってる、幼なじみなのにって。
郁が〈芸能人〉でわたしはそのファンだって、認めてしまえば、ほんとうに郁が遠い存在になってしまう気がして……。
わたし、郁のこと応援したいのかな、それともしたくないのかな、正直自分でもよくわからないの。
応援したい気持ちだってほんとうなんだよ。
こうやって、雑誌をくまなくチェックして、切り抜いたりまでするくらい、ちゃんと。
応援してる、だから腹をくくって、郁と距離を置こうって決めて────それに関しては、現在進行形で郁自身にジャマされていて、どうも上手くいかないけれど。
そういえば、郁は。
紘くんと交わした会話の延長線上にあった疑問が、ふと頭のなかにぽっかり湧いてくる。
紘くんに好きな子がいるように、郁にも好きな子、いるのかな。
例えば、ドラマで共演している沢井まどかちゃんとか……あり得なくはないよね。
「せーら?」
ふと考えはじめると、気になって仕方ない。
だって、もし、郁に好きな子がいるなら、それこそわたしは郁から距離を置いた方がいいはずだし……。
知りたい、だけど。
「ううん、なんでもないよ」
なぜか、聞くのが怖い。
紘くんにはあんなに簡単に聞けたのに。
おかしいな。
どうして郁には聞けないの。