甘くてこまる
郁はまだ呆然としていたけれど。
背中を向けて、窓からまた自分の部屋に戻って、ぱたぱたと玄関まで駆け下りた。
「行ってきます!」
ぴかぴかのローファーに履き替えて、とんとんと踵をなじませる。
扉を開けて、外に出ると。
「紘くん、おはよう」
「はよ」
「ごめんね、待った?」
「いや」
もうひとりの幼なじみ、向かいの家に住む紘くんは、塀にもたれかかって立っていた。
紺のブレザー、ぱりっとしたシャツに、ネクタイ。
中学の制服は学ランだったから、新鮮。
「紘くん、制服似合ってる!」
「せいらもいいんじゃない」
「ほんと?」
「……スカートは短い気もするけどな」
郁と同じことを言ってる。
幼なじみは、言うことも似てくるのかな。
おとなりに住む郁と、向かいに住む紘くん、それからわたし。
保育園のころから、ずうっと、3人で仲良し幼なじみだったんだ。