甘くてこまる
そうだ。
本題を忘れるところだった。
「郁の忘れものを届けに来たんだよっ」
台本の入ったトートバッグを郁の胸元に押しつける。
「母さんの代わりに来てくれたのか。ありがと」
目元を和ませる郁に、わたしはお節介と分かりつつも頬を膨らませた。
「もうっ。こんな大切なもの、置いていっちゃだめでしょ!」
「はは、うん。でも、忘れものしたら、こうやってせーらが現場まで届けに来てくれるのかと思うと、たまにはアリかも」
「ナシだよ! 大ナシ!」
ぷんぷん怒るわたしの膨らんだ頬を、郁が指でつんつん突く。
「おーい、ふたりの世界に入らんとってや。寂しいなあ」
相馬さんの声にハッとして、郁から距離をとる。
あぶない。
また誤解されちゃうところだった……。
「矢花くーん、相馬くーん! そろそろランスルー始めるよー!」