甘くてこまる
通路の奥の方から、女性の声がする。
時計をちらりと確認した郁が「あ、やば。戻らなきゃ」と呟いた。
今は休憩時間で、そろそろまたお仕事が再開するのだろう。
そんな空気を察したわたしが「じゃあ、わたしはこの辺りで――――」と回れ右しようとすると。
「ひえっ!?」
わたしの帰り道をふさぐように、相馬さんが先回りして通せんぼしている。
「あ、あの、わたし帰るので……」
「なあ、せっかくここまで来たんやし覗いていかへん?」
「へっ? な、何を」
「コイツが、どんな顔して仕事するんか、気になるやろ」
こく、と思わず生唾を飲み下す。
そういえば、わたしは、郁の芸能人としての姿を、生で見たことがない。
「っ、でも、わたし部外者ですし……」
ついさっきだって、警備員さんに追い払われそうになったばかりだ。