甘くてこまる


「それより、リボン解けてんの、気になる」

「あ……!」




忘れてた。

郁に解かれたまま、だらしなく垂れ下がっていたリボンのこと。



うう、と項垂れる。

すると、紘くんが少し口角を上げて、指先でリボンをするっと掬いとった。



そのまま器用に結び直してくれる。

不器用なわたしの手つきとは大違い。



かかんだ紘くんの艶やかな黒髪が頬に当たる。

そんな近距離にも動じたりはしない。



だって、ずっとこの距離にいたんだもん。

物心ついたときから、紘くんの背が今の半分くらいのときから、ずっと。





「ん、できた」

「ありがとう……っ」

「どーいたしまして」





紘くんは冷静なしっかり者。
周りからはクールで冷たいって思われがちだけど、こうして、昔から優しくしてくれるの。


今日から通うのは、同じ高校。
紘くんと一緒なら、新生活も安心だ。




ほんとうのほんとうは、中学生の頃までみたいに、郁も揃って3人でいたかったけれど────……ううん、なんでもない、今のはなし!



邪念を振り払って、眩しいくらいの青空を見上げる。


ぽかぽかの日差しが気持ちいい。

桜もちょうど満開。





「わぁ、入学式日和だねっ」

「だな」





郁はあのあとちゃんとお仕事に間に合ったかな、と頭の片隅で気になりつつも、これから始まる高校生活への期待に胸をふくらませた。




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