甘くてこまる
「そないな言い方は人聞き悪いなあ。オレなりのサービスや。女の子は誰でも一度は、こういう華やかな世界に憧れるもんやろ?」
悪びれず口角を上げた相馬さん。
否定しないあたり、仕事現場によく女の子を連れ込んでいるのは事実みたいだ。
同じ “男の子” でも、郁や紘くんとは全然違う。
だって、郁や紘くんが、そういうことをする姿って、まったく想像つかないもん。
「ていうか、笹本ちゃん、やっぱり素質あるなあ」
「素質?」
「芸能活動で飯食ってく素質。
スタジオ間違えたんか? って聞かれてたってことは、よその現場の女優かモデルが紛れ込んだって思ったってことやで。
スタッフさんかて、目え肥えてるはずやのに」
はあ……と曖昧な反応をしていると。
「……!」
ひと足先にヘアメイクさんに呼ばれて姿を消していた郁が、コツコツと足音を立てて、カメラの前に現れた。
思わず息を呑む。
後ろに撫でつけるようにしてセットした前髪、そのせいであらわになった形のいいおでこ、凛々しい眉、ガラスをはめこんだようにキラキラ輝く瞳。
――――郁って、やっぱり、ほんとうに。
「ほんま男前やな。あれには勝てへんわ」
呆れたように呟いた相馬さんだけれど、その瞳は郁に釘づけで。
スタジオ中の誰もが、その類まれな容姿と、佇まいと、そこから放たれる星くずのようなオーラに惹き込まれる。
圧倒的なスターだ、と否が応でも分からされるの。