甘くてこまる


「カット! 今日の撮影は以上になりまーす! おつかれさまでしたー!」




どれくらいの間、ただぼんやりと眺めていたんだろう。
気づけば、撮影は終わっていて、あの眩しかったライトも消えていた。




「せーら」

「っ、わ、郁」

「どしたの。心ここにあらずって感じだけど」




心配そうに膝を折って目線を合わせてくる郁。
ぜんぶ見透かされそうで、怖くなって、視線を逸らした。




「あの、こういう場に慣れてないから……なんだか、見惚れちゃって」

「ふうん?」

「な、なに?」



にやにやとする郁に首を傾げると。



「せーらが見惚れてくれるなら、この仕事、受けてよかったなーって」

「もう!」




郁の横腹を小突いて、それから、ほっとする。




……よかった、バレてなかった。



“郁が、どんどん遠くにいっちゃうのが、寂しい”

“郁が、みんなのものになっていって、いつかわたしのことなんてどうでもよくなっちゃうのかなって思うと、苦しい”




そんな、わがままな気持ち、知られたくないの。



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