甘くてこまる

「今日も、お仕事?」




きっと、そう。

ほとんど確信しながら、尋ねた。



今日は日曜日、わたしは当然お休みの日だけど――――最近の郁の予定はほんとうに忙しない。

午前だけ、午後だけお休みの日はあっても、丸1日休んでいるところをもうしばらく見ていない。




「んーん、今日はオフ」

「えっ。ほんとう?」


「ほんと。昨日の撮影で予定より先のところまで進んだから、今日は俺の出番ないってさ。せーらのおかげじゃん?」

「……? わたしは、何もしてない、けど……」




ただ、スタジオに転がりこんで、ぼうっと眺めていただけの部外者だったんだから。




「せーらのおかげだよ。俺のモチベーション維持に一役……っつうか、二役、三役くらい買ってるんだから」


「もう、またそんな冗談言う……!」





撮影がスムーズに済んだのであれば、それは郁の努力あって、で間違いないんだから。



お芝居のことなんてなにもわからないなりに、スタジオの端っこで見ていただけだけれど、

昨日、郁はリハーサルから本番にいたるまで、一度も台詞を間違えなかった。



NGを出したのも指で数えるほどしかなかった。

それも、ミスではなく、監督からの細やかなニュアンスの修正によるもの。





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