甘くてこまる
「どしたの、じゃないっ! お出かけなんて、無茶だよ」
「なんで?」
「……どうするの、もし、ファンの人たちや記者の人に見つかったりしたら。あぶないよ。郁はもう、有名人なんだよ?」
今までも、ずっと、そう思っていたけど。
昨日、“スター” の郁をこの目で見た今、余計にそう思う。
郁は、わたしと、いるべきじゃないって。
とがめるわたしに、郁はへらりと笑った。
「だいじょーぶ」
「な、にが……」
「俺、いい場所知ってるから。とりあえず、せーらは出かける準備して。40分後出発ね」
「……っ、もう!」
反論さえ、させてくれない。
言いたいことだけ言い残して、郁は部屋を出ていってしまった。
ため息をつく。
郁にも。
……あんな風に、いい子ぶって「有名人なんだから、出かけない方がいい」って諭していたはずなのに、押し切られた今、クローゼットからお気に入りのワンピースを取り出して、そわそわしているわたし自身にも。
楽しみだ、って思ってしまう自分は単純で、だめだ。
――――郁と、休みの日にお出かけするのなんて、いつぶりだろう。