夜明けの花 -死に戻り皇女と禁色の王子-
晩餐会は滞りなく終えた。フェルナンドと同じ列で、間に三人ほど人を挟んだ席──すなわちフェルナンドの視界には入らない席に座ったクローディアのことを皆は一度は不思議に思ったが、内気な性格をしている為だろうなどと考えていた。
夕食を終え、ワインを開けて親睦会のようなものを始めた男性陣を置いて、クローディアは一足先に退出をした。
リアンの部屋ですれ違ってから、フェルナンドとは一度も会っていない。晩餐会でも一言も交わさないどころか、挨拶をする時でさえ目を合わせなかった。
もしかしたら兄たちに無礼な皇女だと愚痴をこぼすかもしれないが、あの顔を見るより兄たちに小言を言われる方がまだマシだった。
外は少し肌寒かった。このままひとりで歩きたいと思っていたクローディアは、側にいた使用人にブランケットを持ってくるよう命じ、中庭へと身を投じた。
コポコポと音を立てている噴水の水面にぼんやりと月が映っている。その柔らかな光の色を見て、陽の色の髪を靡かせていたリアンのことを思い出したクローディアは、そっと目を伏せた。
リアンは元気にしているだろうか。傷はもう良くなっただろうか。痛くはないだろうか。
気になるなら逢いに行けばいい話だが、今の自分にその資格はない気がして、立ち止まって考えることしかできない。
何度目か分からないため息を吐いていた時、背後から足音が聞こえ、クローディアは振り返った。
「──やはりな」
闇に溶け込むような容姿をしている男が、じっとクローディアを見つめている。最も会いたくなかった人が現れ、クローディアの心臓が速度を上げ始めるが、ゆっくりと呼吸をして落ち着かせた。
「…フェルナンド王太子殿下?」
絞り出した声は少し掠れていた。軽く挨拶をしてすぐに立ち去ろうと、クローディアはドレスの裾を摘んだが、その数秒の間に、気づけば目の前にはフェルナンドの顔があって──。
「──その怯えたような目を見るのは久しぶり、だな?」
そっと耳元で囁かれた言葉に、クローディアは茫然自失した。