夜明けの花 -死に戻り皇女と禁色の王子-

生まれた時に母親を亡くしたクローディアの母代わりだったのは、ベルンハルト公子の母君・オルシェ公爵夫人だった。

その息子でありクローディアとは幼少の頃からの付き合いであるベルンハルト公子ならば、きっと妹を幸せにしてくれるだろう、とルヴェルグとエレノスは思っているのだが。

「…僕は無理に嫁がせなくても良いと思うんですがね」

ただ一人、不貞腐れた顔をしているローレンスは、クローディアの結婚話が嫌なようだ。

「ローレンスよ。そなたの気持ちは分かるが、それではディアが笑い者にされてしまうぞ」

この国の女性は、十代後半で嫁ぐのが大半だ。二十を過ぎた未婚の女性は行き遅れだと陰で言われてしまう。 

ローレンスは脚を組み頬杖をつくと、大きなため息をこぼした。

「他者の声など、ひとつも届かない幸せな箱庭に閉じ込めてしまえばいいのです。良い相手に嫁ぐことだけが女性の幸せだとは限らないのですから」

美女に目がなく、遊び歩いてばかりのローレンスだが、公務を蔑ろにすることはなく、クローディアをはじめ家族のことは二人の兄と同様に何よりも大切にしていた。

その気持ちを言葉にして表に出すことは少ないが、こうして家族だけで話す機会を設けると、表情や態度とは裏腹に家族想いな心根の持ち主であることが窺える。
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