夜明けの花 -死に戻り皇女と禁色の王子-
フェルナンドはポケットから何かを取り出すと、クローディアの手に握らせた。それは純白の丸い玉──真珠というもので、かつてクローディアに求婚した時に贈ったものだった。
それを信じられないという思いで見つめるクローディアを、フェルナンドは感情の読めない目で見下ろしながら口を開く。
「処刑台の上で、青い空を見たのが最期だった。目が覚めたら帝国の建国際の十日前に時が戻っていた。まさか実の息子に背かれるとはな」
クローディアは真珠を握る手に力を込めながら、憎くて仕方がなかった男を見上げる。
この男はクローディアが死んだあの日から、どれくらいの月日を生きたのだろう。実の息子に背かれて処刑台に送られたというのは、何があってそんなことになったのだろうか。
聞きたいことは山ほどあるのに、どれを聞くべきか、どれから聞くべきか。様々な感情が入り混じり、思考が働かない。
そんなクローディアの脳裏に、いつかの夢で現れた銀髪の我が子の姿が浮かんだ。
──『母上の死後、私は帝国で育てられました。伯父上たちは優しく、私を慈しみ、とても大切にしてくださいました。…ですが、母上の死をきっかけに再び大きな戦が起きたのです』
アルメリアは帝国で育てられたと言っていた。つまりローレンスがクローディアを看取ったあの日か、それよりも後なのかは分からないが、アルメリアは帝国で成長した後、フェルナンドの言葉通りに実の父親と敵対したと考えられる。