夜明けの花 -死に戻り皇女と禁色の王子-
クローディアは目を伏せた。
背かれたくなかったのなら、そのきっかけとなったクローディアの死をなぜ願ったのだろう。そう仕向けたのは他ならぬフェルナンドのはずだ。
「帝国の力をもって、大陸を支配下に置くのが私の夢だった。そのためのアルメリアはお前が死んだ後に帝国に奪われ、仲間には裏切られ、散々な人生だったぞ」
軽々しい口調に、クローディアは沸々と怒りを沸き上がらせた。自分だけでなく我が子──アルメリアまでをも道具にしようとしていたとは。
「だが、今度こそ成功させる。お前はまた私の元に来るのだからな」
嬉々とした表情でそう語るフェルナンドを、クローディアは唇を噛み締めながら見つめ返す。そこにはもう泥々とした感情はなく、ある決意が生まれていた。
「行かないわ。絶対に」
クローディアはアルメリアに未来を託されたのだ。
自分のいない未来と引き換えに、あの子は平和を願っていた。ならばクローディアがすべきことはただ一つだ。
──もう二度とフェルナンドとは生きない。そのような私利私欲に満ちた男の手は取らない。
「アルメリアに逢いたくないのか? あいつは私とお前の子。私の子種。お前の腹から生まれた子だ。私以外の男とは成せないぞ?」
決意を揺さぶるべく、フェルナンドはクローディアの細い腰に手を添え、無理やり引き寄せる。その気持ち悪い手つきにクローディアは顔を顰めた。