夜明けの花 -死に戻り皇女と禁色の王子-
「やめて!触らないでっ…!!」
触れられたところが熱い。迫りくる唇から逃れようと、クローディアはフェルナンドの胸を押そうとしたが、もう片方の手も掴まれてしまった。
「ああ、そのように抵抗するお前も新鮮だな。それはそれでいい」
フェルナンドはクローディアの両手首を上に上げ、片手で押さえつけるようにし、空いた方の手で胸を乱暴に掴んだ。そうして高らかに笑うと、クローディアを芝生の上へと押し倒す。
「やめて、離してっ…!!いやぁっ…!!!」
クローディアは精一杯声を張り上げたが、誰も駆けつけてくれなかった。所用を命じた使用人はまだ来ないのだろうか。護衛をしているはずの騎士や見回りの兵はどこへ行ったのだろう。どうしてこの声は誰にも届かないのだろう。
「暴れるな、クローディア。これは神に定められし運命の子…アルメリアを迎えるための儀式なのだ」
フェルナンドは息を荒くさせると、クローディアの白い肌を暴くべく、胸元のリボンへと手を掛けた。
──その時だった。
突然上からバシャリと降ってきた水が、フェルナンドをずぶ濡れにした。クローディアにも少し掛かったが、フェルナンドが覆いかぶさるようにしていたからさほど濡れてはいない。
「………ふざけるな」
ゾクリとするくらいに低い声を出したフェルナンドはゆらりと立ち上がると、殺気が籠った目を後方に向ける。そこには石畳みの階段があり、それを登った先には人影があった。
「──何してるの、ディアに」
夜空に聳える月のような髪が揺れている。フェルナンドを見据えるその瞳には軽蔑の色が浮かんでいた。
「………リアン…」
か細い声を聞いたリアンは握り拳を作ると、フェルナンドの後方で倒れているクローディアへと駆け寄った。