夜明けの花 -死に戻り皇女と禁色の王子-

「ディアッ、怪我は!? 何かされた!?」

血相を変えてクローディアの元へとやって来たリアンは、まだ建国祭の時の傷が痛むのか、片手で傷口があるところを押さえていた。

「触られただけ、だから…大丈夫よ」

クローディアはリアンのように刃物で傷つけられたわけではなく、擦り傷一つない。ただ触られただけだ。
だというのに、震えは止まらず手足に力が入らない。

リアンはぎゅっと唇を噛み締めると、クローディアの脇の下に手を入れ、身体を起こすのを支える。そして厳しい目つきでフェルナンドを見ながら立ち上がった。

「ディアに何をしたの?」

「私に話しかけるな。神に嫌われし者が」

リアンの問いかけをフェルナンドはばさりと切り捨てると、濡れた前髪を掻き上げた。うんざりとしたような表情でリアンを一瞥すると、リアンの後ろで震えているクローディアを見て満足そうに笑う。

「…口をひらけば神、神。その神に祈りを捧げて、一体何の得があるわけ?」

リアンは羽織っていたブランケットを脱ぐと、茫然としているクローディアの肩にそっと掛けた。

「貴様、神を侮辱するのかっ…」

「知らないね、神なんて。その神のせいで不幸になった人間がどれだけいると思ってるの?」

「それが神の定めなのだろう。ならば従うほかない!」

典型的なオルヴィシアラの王家の人間──神を信じ、神に仕える僕でしかないフェルナンドをリアンは冷めて目で見つめると、重苦しいため息を吐いた。
< 114 / 223 >

この作品をシェア

pagetop