夜明けの花 -死に戻り皇女と禁色の王子-

「…血の近い者同士の婚姻によって、体が弱い子どもが生まれるのが怖いならば、子どもを作らず、養子でも迎えればいい。良縁に恵まれなかったのなら、これからも我らの目の届くところに置いておけばよいかと」

ルヴェルグとエレノスは目を見張った。

第一の婚約者候補であるベルンハルト公子との縁談を持ち上げられずにいるのなら、これからも変わらずに一番近くで見守ればいいのではないかとローレンスは意見を述べたのだ。

「我らはあの子が生まれた日、ソフィア皇妃がお亡くなりになったあの日──あの子を脅かすものは全て滅し、この世の誰よりも幸福にすると誓った。それをお忘れだろうか?」

ローレンスの言葉に、二人の兄は言葉を飲み込んだ。

クローディアと同じく身体が弱かったソフィア皇妃は、クローディアを産んだ日に亡くなってしまったのだ。
生まれたばかりの妹に会いにきた三人の兄に、私の代わりに成長を見守り、愛してやってくれ、と言葉を遺して。

ローレンスは幼少期より自分が皇帝になるのだと意気込んでいたが、ソフィア皇妃が亡くなった日からそれは二度と口にしなくなった。それだけでなく、皇帝の座など継がないと公言し、世間を騒がせてしまった。

「しきたりなど、兄上の一声でどうとでもなる世になったのです。僕はクローディアの思うがままに、自由にさせてあげたい」

そう言い放つと、ローレンスはソファから立ち上がり「では美女探しに行って参ります」とホールへと降りていった。

「…そうですね。ディアが幸せでいてくれるのなら」

紫色の髪と瞳を持って生まれた皇族であることを誇り、帝位を継いで民を豊かにすると夢を語っていた弟は、気づけば一人の逞しい青年へと成長していた。

そのことに気付かされたルヴェルグとエレノスは、美女探しに行くと言っておきながら、他国からの賓客に挨拶回りをしているローレンスの姿を見て微笑み合った。
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