夜明けの花
幼馴染であるベルンハルト公子に会うためにホールへと降り立ったクローディアだったが、瞬く間にたくさんの人に囲まれてしまった。滅多に人前に現れない皇女が来ているのだ。認知されたい輩は数えきれない。
(ど、どうしましょうっ…)
人混みが大の苦手なクローディアは、次々と挨拶をしてくる貴族たちを前にして固まってしまった。皇女としてどうするべきなのかは分かっているが、緊張のあまりに脚が震えてしまっている。
「ご機嫌よう、皇女殿下。今日もお美しいです」
「皇女殿下、こちらは私の息子でして──」
「──が今年は大豊作だったので、皇女殿下にと──」
次々と掛けられる声に、言葉を返さなくてはならないのに、声が喉を越えてくれない。
このような場では、いつもはエレノスが一緒だったので、クローディアはその横で微笑んでいるだけで大丈夫だった。
だが、今は自分一人だ。ベルンハルト公子に会いたいがために飛び出してきてしまった少し前の自分が恨めしい。
(助けて、エレノスおにいさま)
クローディアは俯きそうになるのを堪えながら、必死に頭を働かせた。
今目の前にいる貴族の名前は何といっただろうか。どなたから一番に返事をすべきだろうか。ベルはどこにいるのだろうか。考えているだけではこの場を切り抜けることは難しいが、大好きな幼馴染であるベルに会うためにはここを突破しなければ。
この輪の中に最も優先して声をかけるべきである相手──国境の向こうから来ている賓客の姿を探そうと、一歩足を後ろに引いた、その時だった。