夜明けの花 -死に戻り皇女と禁色の王子-

「俺が生まれた国の人たちは、神を信仰してるんだけど、その神様が金髪でさ。…黒髪しかいない王家で、この髪で生まれた俺は神を冒涜する存在だって言われて、生まれてすぐに殺されるはずだったんだよね」

リアンは淡々とした口調でそう語ると、頬杖をついて窓の外へと視線を投げた。

「だけど、あいつが泣いて止めたらしいよ。命は尊いからとかなんとか」

リアンがあいつと呼称する人間はただ一人、腹違いの兄であるフェルナンドのことだ。現国王と王族と縁のある大貴族の娘との間に生まれた、黒い髪と瞳を持つ国の後継者。

リアンとは違う、正統な血筋の王子。

「…お陰で俺は、綱渡りするみたいに生きてきた。あいつの気分次第で、いつ殺されてもいいようなものだったな」

自分のことなのに他人のように語るリアンの横顔から、何を思っているのかは分からなかった。だが、もう何もかもを諦めていそうな口振りだというのに、瞳の光は失われていない。

リアンはまだ諦めていないのかもしれない、とクローディアは思った。それが何なのかは上手く言葉にできないが。

「だから髪を隠していたの?」

「うん、そう。そうしたら人の目に触れないし」

他人に見せたくもないし、自分自身も見たくもない金色の髪に、リアンは何度理不尽な思いをさせられたことだろう。

思い返すだけで息が詰まりそうになるが、リアンを見つめるクローディアの眼差しは柔らかく、温かく、初めて光を知ったような目で見つめられ、リアンはそれ以上何も言えなくなった。
< 133 / 223 >

この作品をシェア

pagetop