夜明けの花 -死に戻り皇女と禁色の王子-
「私は好きだわ、リアンの髪。ルヴェルグ兄様のようで素敵よ」
好きだという言葉に、リアンの鼓動は跳ねた。誤魔化すように視線を落とし、扇を握る手の力を強める。
「それはローレンス殿下にも言われたよ。…綺麗だから見せてくれって」
だから最近はフード付きのマントやケープを身に付けなくなったのだとリアンは告げると、勇気を出すような心持ちでクローディアを見た。
クローディアは柔らかに笑っていた。その方がとっても素敵だと囁くような声音で言うと、窓の外へと視線を戻した。
思わず好きだと言ってしまったクローディアと、好きだと言われたリアン。ふたりは互いに胸の鼓動が早鐘を打っているのを感じながら、ゆっくりと呼吸をする。
(──やっぱり、なんだか変だわ)
(──わかっているのに、何なの)
ただ、髪について言っただけなのに──と、ふたりとも心の中で呟いた。ただそれだけのことなのに、どうして泣きたくなるのだろう。どうして息をするのが難しくなったような気がするのだろう。
“どうして”と何度も胸の内で自分に問いかけたが、答えはひとつも返ってこなかった。
顔を合わすたびに、笑っていてほしいと願ってしまうその気持ちの名も、ふたりはまだ知らなかった。