夜明けの花 -死に戻り皇女と禁色の王子-

アウストリア帝国の皇都──またの名を首都シヴァリースという広大な都市を南に進むと、首都の真下にあるグロスター領の手前に目的地であるグロスター美術館はあった。

風景は大都市から一変、豊かな自然で溢れている場所にあるが、辺りは観光客で賑わっている。

神殿のような見た目をしている博物館だが、その中には気が遠くなるような年月を超えたものや、戦火から逃れ生き延びた作品など、美しい宝たちが展示されている。


「ここがグロスター美術館か」

馬車から降りたリアンは、その眩しさに目を細めていた。建物は石造りのようだが、壁も床も光を受けて艶やかに煌めいている。

遅れて降りたクローディアは、久しぶりに訪れた博物館を見上げた。うんと小さい頃に来たことがあったが、ここで何を見聞きしたのかはほとんど憶えていない。

「この美術館って、帝国の宰相殿と何か関係があるの?」

「ええ。正式には私のお祖父様が皇帝だった時のグロスター公爵家の当主が建てたものよ」

グロスター公爵家は帝国の名門貴族だ。現宰相のような才能豊かな文官を数多く輩出している。これを建造した公爵は、世界各地から美術品を集め、それを展示するためだけの建物を造ってしまうくらい芸術を愛した人だったという。

リアンもその方面に興味があるのか、入り口の壁に彫られている模様を吸い込まれたように眺めていた。
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