夜明けの花 -死に戻り皇女と禁色の王子-

「ようこそおいでくださいました、クローディア皇女殿下。お久しぶりですね」

入り口で話していたクローディアとリアンの元に、初老の男が歩み寄ってくる。その男が着ているジャケットの胸元には博物館のマークの刺繍が入っていた。博物館の館長だろうか。

「ご機嫌よう。…ごめんなさい、私は幼い頃に来たきりだから、あまり覚えていなくて」

「私は覚えていましたよ、ずっと。…ルキウス陛下と手を繋いで来られていました」

ルキウス──それはクローディアの父親の名だ。病気がちな人で、二十七歳という若さでこの世を去った先の皇帝だった。ルヴェルグと同じ金色の髪に紫の瞳を持ち、美しく儚げな人だったという。

クローディアが小さい頃に亡くなってしまった為、その姿や声は朧げだ。優しい人だったことしか憶えていない。

「申し遅れました。私は館長のアルス=グロスターと申します」

そう名乗った館長は、常に無表情でいるグロスター宰相とは違い、温かい微笑みを浮かべる優しげな人だった。クローディアの隣にいるリアンにも深々と敬礼をすると、クローディア達を先導するように歩き出す。

「皇女殿下が来てくださるなんて、作品たちも喜びますね」

「ふふ、館長ったら。それは大袈裟よ」

館長の後に続いて館内へと入ると、そこには客人を出迎えるかのように大きな肖像画が飾られていた。その懐かしい絵を見てクローディアは足を止めた。
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