夜明けの花 -死に戻り皇女と禁色の王子-

「…これがアドニス皇帝陛下か」

クローディアが今まさに言おうとしていたことを、隣にいるリアンが呟いた。

──アドニス。それはクローディアの祖父の名だ。

「あら、お祖父様を知っていらっしゃるの?」

その名をリアンが知っていることに驚いたクローディアは、じっと肖像画を眺めているリアンを見やる。

「そりゃあね。有名だし」

リアンはクローディアと目を合わせて小さく微笑むと、再び肖像画へと視線を動かす。その目は子供のように輝いていた。

「というより、その妻だったティターニア皇后の方が王国で語られてたかな。勝ち気で勇敢で、剣を手に戦場を駆け抜けたとか」

「ええ、お祖母様はどんな殿方よりも怖かったわ。でもとてもお優しいの」

アドニスとその妻ティターニアは、皇帝と皇后でありながら自ら剣を手に戦場を駆けた、勇敢な皇帝夫妻だった。

祖父はクローディアが生まれる前に亡くなってしまったが、祖母は皇族が所有している小さな城でのんびりと暮らしている。本人曰く、若い頃にやりたかったことを楽しみたいのだとか。

「リアンのような金色の髪の方よ。亡くなった私のお父様もそうだったと聞いているわ」

クローディアの声に、リアンはゆっくりと下を向いていった。それを見て、クローディアは続けようとした言葉を飲み込む。
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