夜明けの花 -死に戻り皇女と禁色の王子-

「いいな。俺も帝国で生まれたかった」

ぽつりと、リアンが小さくこぼした声は少し掠れていた。

「…リアン?」

「ここに来てから、そんなことばかり考えてる。ここの人たちは俺の髪を見ても、王国の人たちのような目で見てこないし」

リアンの青い瞳が揺れる。寂しそうに、悲しそうに。それを向けられたクローディアは、何の言葉も返せなかった。

「…帝国で生まれていたら、幸せになれたかな」

リアンは囁くような声でそう呟くと、クローディアに背を向けた。そうして再び肖像画を見上げ、深く息を吐く。

クローディアはリアンと言いかけ、手を伸ばそうとしたが引っ込めた。今のリアンに──自分が何気なく放ってしまった言葉せいで傷ついてしまった人に、どんな言葉を贈ったら笑ってくれるのだろうか。

「………リアン…」

クローディアは胸の前で手を握り、リアンの背を見つめる。

金色の髪は、クローディアの愛する兄や亡き父、祖母と同じだ。光のように眩く美しいそれを宗教的な、或いは理不尽な理由をつけて嫌ったり迫害する人はこの国にはひとりもいない。

だが、リアンはその髪のせいで辛い思いをしてきたのだ。そんな人に同じ色の髪の皇族の話はするべきではなかったのかもしれない。

押し寄せる後悔に、胸が詰まったように苦しくなった。

「…ごめん、こんな話して。忘れて」

リアンは消え入りそうな声でそう言うと、クローディアを振り返った。だが、その先にあるものを見て、大きく目を見開く。
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