夜明けの花 -死に戻り皇女と禁色の王子-
子供たちが教会へと戻ったのを見送った後、リアンはコートのポケットに手を突っ込んだ。その目は教会へと向けられている。きっと先ほどの子供たちのことを考えているのだろう。
「…豊かな公爵領の教会の子供でも、満足に食事が行き届いてなさそうだね。となると、国境辺りはもっと酷いんだろうな」
ここグロスター領は帝都と隣接しており、国土の中央に位置している。広大な麦畑や果樹園がいくつもあり、帝国一豊かな土地と言われているが、教会で面倒を見ている身寄りのない子供たちは戦時中でもないのに痩せていた。
「どうして国境辺りは酷いの?」
クローディアは皇女でありながら国の情勢に疎かった。そのことをリアンは一瞬不思議に思ったが、知らないから知りたいのだというクローディアの意志を感じたリアンは、落ちていた枝を拾うと地面にざっくりと大陸の地図を描いていった。
「帝国はここね。ここからここまでだから、大体大陸の半分が帝国の国土」
リアンはその図の真ん中に線を引いた。その線より左側はほとんどが帝国で、上側には四つ、右側にはオルヴィシアラを含めて三つ国のがあるという。
「北と東はともかく、西や南は数年前までは帝国に属してなかったわけだから、国土の一部ではあっても統治が行き届いてないんだよ」
リアンが言った国境というのは、先の戦争で勝ち得た西と南側の領土であり、統治が行き届いてない場所だという。おそらくこれから誰が治めるのかを議論していくのだろうとリアンは言った。