夜明けの花 -死に戻り皇女と禁色の王子-
「…どこも変わらないね。身寄りのない子供たちは、帝国にも居たんだ」
風で落ち葉が舞い踊る。夕方の淡く滲むような長い日差しが、リアンの横顔を寂しく照らす。その目は教会の前で駆け回る子供たちを見据えたままだ。
「俺は王家に生まれたから、食べるものや寝る場所に困ったことはないけど、あの子たちは…」
リアンはぎゅっと握り拳を作った。その手は白くて傷一つないクローディアの綺麗な手とは違い、王族なのに畑や水仕事でもしているような手だった。
「…恵まれてたんだな、俺。こんな髪でも」
そう言って、リアンが唇を噛み締めたと同時に、クローディアはリアンの手を握った。突然灯った熱に、リアンは驚いて目を見張ったが──その柔い温度にリアンの心は包み込まれた。
「リアン」
深い青の瞳が、クローディアへと動く。フェルナンドと同じ色のそれを向けられることに、胸の高鳴りを覚えたのはいつからだろうか。
(もしかしたら──)
リアンがゆっくりと深呼吸をする。そうしてクローディアの手を握り返すと口を開いた。
「ねぇ、ディア。子どもたちが幸せに暮らせる未来を夢見てるって言ったら、笑う?」
今にも泣き出しそうな顔でリアンは語る。
その声はもう、震えてはいなかった。
「笑うわけないじゃない。素敵な夢だわ」
「でも、夢は所詮夢だからね。叶えなければ意味がない。…せっかく王子として生まれたのに、この髪のせいで何もできないのが悔しいな。…黒髪で生まれてたら、俺も兄のように力があったのかな」