夜明けの花 -死に戻り皇女と禁色の王子-
皇族同士の婚姻は、国と国を固く結びつけるものだ。両国の血を引く子供が生まれてこそ、婚姻の真の目的を成すと言っても過言ではない。それを悪用しようとした結果、悲しい最期を迎えた者もいるが。
(…子なんて……)
ルヴェルグの言葉は理解したつもりだった。即位からたったの五年で、大きな戦を終結させただけでなく、様々な問題を片付けてきたルヴェルグは今や大陸一の国の皇帝だ。
そんな彼に釣り合う身分の女など、海を越えて探しに行かなければいないだろう。
だからと言って、妹の子を──ましてや形だけの結婚をしようとしているクローディアの子を跡継ぎにしたいと言うなんて。
あれやこれやと考え始め、困った顔をしてしまったクローディアを見て、ルヴェルグはフッと笑った。
「…跡継ぎの話はさておき、ヴァレリアン殿下との結婚は賛成だ。のちほどエレノスとローレンスも呼んで話しておく。そうしたら王国に使者を送り、進めていくとしよう」
クローディアは顔を上げた。条件があるなどと言っておきながら、快く了承してくれるとは。
元よりリアンのことを気にかけていたからというのも理由の一つだろうが、皇帝が賛成してくれるならばこの話は決まったも同然だ。
「ありがとうございます、皇帝陛下」
クローディアはソファから立ち上がり、ドレスの裾を摘んで頭を下げると部屋を出て行った。
その背を穏やかな目で見送ったルヴェルグは、妹の足音が遠のいた後、相棒である長机の所へと戻り、その下を覗き込んだ。