夜明けの花 -死に戻り皇女と禁色の王子-
「──もう出てきても良いぞ」
ルヴェルグの声に、机の下に潜り込んでいたローレンスが「よいしょ」と出てきた。なんと隠れて聞き耳を立てていたのだ。
「初めて机の下に入ったが、窮屈ですね。僕の美しいヘアセットが乱れてしまった」
──毎日同じ髪型をしているのに、何を言っているのだ。ルヴェルグは呆れたように笑うと、へらりとしているローレンスの頭を優しく叩く。
「全く、堂々と聞いても問題ないだろうに。皇族としてうんたらかんたらと年中語っているそなたが、皇帝の執務室の机の下に隠れて盗み聞きをするなど、帝国中に報せてやりたいものだな」
「堪忍してくれたまえよ兄上。僕はただ花を入れ替えに来ただけなのだよ」
ローレンスはそう言い訳をするが、そもそもルヴェルグの部屋に花は飾っていない。チェストの上にある花瓶はずっと空のままだ。
「そういうことにしておこう」
ルヴェルグはローレンスと入れ替わるようにして机の前の椅子に腰を下ろすと、頬杖をついてローレンスを見上げた。
ローレンス=ジェラール=アウストリア。オルシェ公爵家と並ぶ名門貴族・ジェラール公爵家の公女が母である、紫の髪と瞳を持った、誰よりも皇帝の座に近かった誇り高き皇子。
そんなローレンスは美しいものに目がない。たとえそれが花であろうと食べ物であろうと、人間であろうとも。