夜明けの花 -死に戻り皇女と禁色の王子-

ローレンスの目はルヴェルグへと向けられたままだが、その後ろにある大きな窓の向こうに広がるものを見ているようだった。青い空の向こう──うんと遠くにある何かを捜すような眼差しで外を見ていたローレンスは、重い吐息を吐くとルヴェルグに向き直った。

「僕はね、あの日のディアの姿が忘れられないのですよ」

「…あの日、とは?」

「ディアが寝起きで僕のところに駆けてきて、大泣きした日のことです。悪い夢を見たのだと本人も周りも言っていましたが、僕にはそうは思えなくてね」

ルヴェルグは必死に記憶を辿る。確かそれは建国際の前だっただろうか。いつものように政務をこなしていたら、夜分にエレノスとローレンスが来てそのような報告をしてきたのだ。

「悪い夢を見ただけなのだろう? …思い出すのも辛いものを」

「勿論、僕もそう思ってますよ。ただの夢であればいいとね。…ですが、もしも予知夢のようなものだったら? あの日“オルヴィシアラ”と口にしていたことに何か意味があるのではないかと思っているのです」

夢は夢でしかないとルヴェルグは思っているが、ローレンスは違うようだ。あの日からクローディアの言葉の意味についてずっと考えていたのか、当事者でもないのに難しい顔をしている。
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