夜明けの花 -死に戻り皇女と禁色の王子-

「なるほどな。確かその時、アルメリアの花がどうこうとも言っていたらしいな」

「ええ、そうです。アルメリアはオルシェ公爵家の紋章であり、象徴。これも何か関係があるのではないかと」

オルヴィシアラといいアルメリアといい、箱庭で大切に育てられた世間知らずの皇女が、なにゆえ他国の名と花の名を口にして泣いていたのだろうか。

それが悪い夢の内容に関わっているにせよ、ルヴェルグには夢は夢でしかないとしか考えられなかった。


だが、ルヴェルグはそれはそういうものだと決めつけて終わりにする人間ではない。常に物事を柔軟に考えるよう努め、革新的な政治を行なってきたこの国の指導者だ。

ローレンスの話を全て信じているわけではないが、兄として信じたいという気持ちはある。しばし考えたのち、ルヴェルグは口を開いた。

「何の確証もない話を恐れていては、前に進めない。…私にできることは、ありとあらゆる可能性を考えながら、不測の事態に備え、支えてやることだけだ」

皇帝としてのルヴェルグと、三人の家族を守る兄としてのルヴェルグ。どちらかひとつを選び、そのまま生きることができたら幸せだろうが、それでは大切なものをすべて守ることはできないのだと、亡き父ルキウス一世は云った。
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