夜明けの花 -死に戻り皇女と禁色の王子-

──『守りたいものがあるのなら、それをさいごの瞬間まで護りたいと望むのなら、皇帝におなり』


光のように輝いていた金色の髪の前皇帝・ルキウス一世は、三人の息子で唯一金髪を持って生まれたルヴェルグに言った。

あれは星が瞬く夜のことで、ルキウスは生まれたばかりのクローディアを抱いていた。


──『父上は、なぜ皇帝になったのですか』

──『皇帝とならなければ、守れないものがあったからだよ。…いいかい、ルヴェルグ。皇帝という座は何かを成すためのひとつの手段に過ぎない。それを忘れてはいけないよ』


生まれた時から心臓の病に侵されていたルキウスは、長くは生きられないと言われていた人だった。声を聞かなければ女性と見間違えるくらいに美しい容姿をしていて、枯れていく花のように儚げな人だった。

そんな父との色濃いひと時のことを思い返していたルヴェルグは、難しい顔をしているローレンスを片手で抱き寄せ、紫色の艶やかな髪を撫でた。

「…ヴァレリアン殿下、か。いつか帝国の民になってくれたらと願ってはいたが、まさかこのような形で叶うとはな」

ローレンスはルヴェルグの肩にこてんと顔を預け、静かに微笑む。

「最初に彼に目をつけたのは兄上でしたね」

「目をつけたとは人聞きの悪い」

「はっはっは。僕たちは気が合いますね」

そうかも知れないな、とルヴェルグは口元を綻ばせる。こんなふうに時折甘やかしてくるルヴェルグのことが、ローレンスは大好きだった。

「彼はね、真っ直ぐな目をしているんです。とてもね。…あの目は嘘をつかない」

「うん」

「それにね、彼は帝国の衣装がとても似合うんですよ。僕なんかよりもずっとね。…紫色も映えることでしょう」

「…そうか」

ルヴェルグの肩越しに外を見ていたローレンスは、兄の優しさに甘えながら目を閉じた。この人の弟に生まれてよかった、と。そう思いながら。
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